歯列不正は歯周疾患を増悪させる因子

 不正な歯並びは、歯周疾患を増悪する因子になります。歯が重なっていたり傾いていると、歯周病の原因となるプラーク(細菌のかたまり)が歯に付着しやすくなるからです。
 特別連載講座の第一回(2001年5月号)で「歯周病はどうして発症するのか」に述べたように、歯周病の原因には局所的原因があり、この局所的原因を除去する治療をする必要があるのです。
 患者さんは、歯肉に炎症を引き起こす原因であるプラークを、歯に付着をさせないようにコントロールすることが大切です。しかし、歯並びが悪くて重なっていたりすれば、通常のブラッシングだけで完全に汚れを落とすのは困難です。
 歯並びの悪いデコボコした部分の歯の汚れも、ブラッシングだけで完全に落とすのはたいへんです。歯ブラシだけでは完全に落ちないので、どうしてもデンタルフロス、 歯間ブラシなどの補助道具が必要になります。そして、磨き残しがないようにていねいに歯を磨くには、正常の歯並びの患者さんよりも時間がかかります。
 このように、歯列不正は歯周疾患を増悪させる因子になります。歯列不正はプラークコントロールも不十分になり、歯周病だけでなくむし歯になるリスクも高まります。歯周病の治療とともに、矯正治療により歯並びを改善して、正しい生理的環境を整えることで、局所的原因を取り除かなければなりません。
 不正な歯並びは、歯周組織にもう一つの問題を起こします。歯は食べ物を粉砕する際、強い力が加わり、その咬む力は歯を支える歯周組織に支えられています。歯が傾いていれば、歯周組織に無理な力が加わり、歯周組織が壊れていきます。
 このような歯周組織に破壊的に作用する咬む力を「咬合性外傷」といいます。歯の位置異常や歯軸の傾斜異常などの歯列不正があると、咬む力や唇・舌などの余計な力が歯に加わることで、歯周組織が破壊され、さらに歯が移動して審美性が障害されたりすることもあります。

矯正治療が必要なケース

総 数
12歳~15歳
16歳~20歳
20.27%
17.23%
23.51%
3.47%
2.62%
4.38%

図1

厚生省による歯科疾患実態調査(平成11年)
~歯の重なりの状態~

総 数
12歳~15歳
16歳~20歳
61.66%
61.19%
62.15%
28.32%
30.60%
25.90%
10.02%
 8.21%
11.95%

図2

厚生省による歯科疾患実態調査(平成11年)
~前歯上下の噛み合わせの関係~

総 数
12歳~15歳
16歳~20歳
59.27%
57.84%
60.80%
31.47%
35.82%
26.80%
 9.20%
 6.35%
12.40%

図3

厚生省による歯科疾患実態調査(平成11年)
~前歯前後の噛み合わせの関係~

 (1) 歯列の不正は、幼児期から生じた歯列不正を矯正治療しないで放置したケースと、成人になって歯周疾患が原因となり、歯列不正が発生したケースがあります。
 幼児期から生じた歯歯列不正は、どのくらい出現するのでしょうか。平成11年に厚生省(現・厚生労働省)は、歯科疾患実態調査で歯列不正を取り上げています。
 十二~二〇歳までの乱ぐい歯と呼ばれる叢生は二〇.二七%、歯と歯の間にすき間のあるものが三.四七%(図1)、噛み合わせが深いもの二八.三二%、、上下の歯が浅いか開いているもの  一〇.〇二%(図2)、 出っ歯か下顎が後退しているもの三一.四七%、受け口とよばれている反対咬合が九.二〇%(図3)もいます。当然重複しますが、総計で一〇一%にもなり、歯列不正は特別な疾患ではなく、すべての患者さんにとって見逃すことのでなきない問題なのです。
 (2) 成人になって、重症の歯周病になると歯を支える骨(歯槽骨)などの歯周組織が破壊され、歯を支えることができなくなります。植木の土が少なくなったり、土がゆるめば支えがなくなり、植木が揺れたり、傾くのと同じです。歯に加わる咬む力のバランスの変化により、病的に移動して、歯列不正を生じるケースがあります。歯が正しい位置に維持できなくなり、歯が傾斜してくるケースも多く見られます。
 (3) 歯を抜いて(または自然に抜けて)、そのまま放置したことにより、隣の歯が傾斜して、歯並びのバランスを崩すケースもあります。これらの歯列不正は、歯と歯の間にすき間が生じたり、ちょっとした歯の重なりが、重篤な問題を引き起こす原因にもなります。

歯列不正の治療としては

 (1) 幼児期から発症した歯列の不正は、歯周疾患の予防として矯正治療することが望まれます。現在は、成人になってから自分の歯並びにコンプレックスをもつため、成人の矯正治療を望む比率は高まっています。

【症例1】

 スケーリングを行い、染め出しによるプラークコントロールをしましたが、患者さん本人が努力をしたにもかかわらず、歯肉からの出血がみられ、良い結果が得られなかったので、矯正治療をしました。(図4
 矯正治療をする前は、前歯が重なっており、歯肉からの出血もみられます。歯周ポケットも4~5mmありました。矯正治療後は歯肉の出血も治まり、歯周ポケットも1~2mmに改善されました。(図5
 (2) 重症の歯周病になった場合、歯を支える歯槽骨がなくなり、歯を支えることができません。そのため、歯に傾斜や移動などの歯列不正が起こり、前歯が飛び出したり、前歯が開いて審美性が悪くなります。

図4

矯正治療前

図5

矯正治療後

【症例2】

 歯周病の治療終了後、審美性の回復のために歯の一部を削って、人工の歯を作り、歯が再び移動しないように、人工の歯をつなげる方法が一般的です。(図6

図6

治療前
~歯周病により前歯が飛び出ている

図7

治療後
~審美性回復治療終了後

【症例3】

 歯周疾患により、歯が移動をした場合には、【症例4】のように、歯にブラケットを装着して、ワイヤーで移動する固定式矯正装置を使用して、歯を正しい位置に治します。
 矯正治療は、歯周組織を再構築するのですから、歯周疾患の治療をしないで、矯正治療することは、歯周疾患をさらに重篤にする危険があります。たとえば、歯の周囲の歯槽骨の吸収が歯の根の2分の1から3分の1の吸収があって、歯の動揺が認められても、歯周治療と併診することで、矯正治療は可能になります。しかし、歯槽骨の吸収も垂直吸収、水平吸収などで病態が変わりますから、治療ができないケースもあります。

【症例4】

 前歯が飛び出しています(図8)。患者さんは、健全な歯をどうしても削りたくないと希望したので、矯正用のワイヤーを装着して治療しました。(図1011) 通常の矯正治療よりも歯槽骨が吸収しているため、短期間で歯は正しい位置に修正されます。(図1213
 矯正治療後は、歯が再び移動しないように、前歯の裏側からワイヤーで固定をしています。
 取り外し可能な入れ歯に類似した可徹式床矯正装置を使用する方法もあります。

図8

初診時の前からみた状態

図9

上顎の噛み合わせからみた状態

図10

上顎にワイヤーを装着した状態

図11

上顎の噛み合わせからみた状態

図12

矯正治療終了後

図13

上顎の噛み合わせからみた状態

【症例5】

 歯周病で前歯の歯並びが不揃いになり、前歯が飛び出てしまいました(図1415)。歯の入るスペースがないので顎を拡げます(図1617)。
 スペースができたのでワイヤーで歯の位置を修正します(図1819)。
 一本だけ新しい歯に治しました(図2021

図14

矯正治療前

図15

上顎の噛み合わせからみた状態

図16

装置を付けた状態

図17

上顎の噛み合わせからみた状態

図18

装置修正後

図19

上顎の噛み合わせからみた状態

図20

装置修正後

図21

上顎の噛み合わせからみた状態

【症例6】

 奥歯がないために噛む負担にたえられず、歯周病に罹患していた上顎の前歯が前方が飛び出てしまいました(図2223)。
 入れ歯に前歯の位置を整えるワイヤーを付けて、飛び出した前歯の歯並びを修正しました。前歯の詰めものも交換しました(図2425)。
 その結果、歯並びはよくなりました(図2627)。
 (3) すべての歯でなく、部分的に歯を移動する治療も可能です。M.T.M(Miner Tooth Movement)とよばれる治療方法です。
 いろいろな理由から、歯が傾斜しているケースがあります。歯を抜いた場合、両側の歯を削ってブリッジを作ります。しかし、土台になる歯が傾いていれば、歯周組織に無理な力が加わり、歯周組織を壊してしまいます。歯は正しい位置に並んでいないと、正しい機能を有する入れ歯や固定式のブリッジを作ることはできません。

図22

上の前歯が飛び出た側面

図23

正面

図24

ワイヤー装着時

図25

ワイヤーの矯正治療後

図26

矯正治療終了後の側面

図27

矯正治療終了後の正面

【症例7】

 下顎の真ん中から5番目の歯が内側に傾いています。傾いた5番目の歯を、正しい位置にするためにワイヤーで矯正治療を行いました。(図282930)。
 歯軸を修正した後、ブリッジを製作しました。(図31

 歯周疾患やむし歯の罹患率は、年齢に伴って増加しています。歯を抜かなければならない状態や、歯に詰めものや冠を被せたりする治療も、加齢とともに増加していきます。歯周治療だけで治療が完了するケースは少なく、歯周治療・矯正治療などを考慮した治療が望まれます。

図28、29、30 下顎の真ん中から5番目の歯の矯正治療過程の状態

図29

図30

図31

ブリッジ装着後

 歯周疾患やむし歯の罹患率は、年齢に伴って増加しています。歯を抜かなければならない状態や、歯に詰めものや冠を被せたりする治療も、加齢とともに増加していきます。歯周治療だけで治療が完了するケースは少なく、歯周治療・矯正治療などを考慮した治療が望まれます。